メメント森

そのうち攻略情報とか書けたらいいな

幸福と教育の国、フィンランド

フィンランドに34歳の女性首相が誕生した。日本人の感覚だと若さに驚いてしまうが、そもそもフィンランドの議員の平均年齢は47歳と若い(日本は57歳)。しかも女性議員の割合は46%もの高さを誇り、政権与党(連立政権)の4人の党首は全員が女性だ。女性が要職についただけでニュースになる日本との違いに驚くばかり。なお、日本の女性議員割合は14%だそうだ。

 

フィンランドという国は、日本だとサンタとムーミンの国、というイメージだろうか。少し詳しい人ならノキアとサウナとサルミアッキが出てくるだろう。

 

これらのキーワードと並んで、フィンランドはしばしば教育先進国として紹介される。たとえば国際学力比較調査(PISA)では総合1位の常連だが、年間授業数は少なく、OECD加盟国で最下位だとか。日本と比較すると40日少ないそうだ。加えて、塾の文化がなく(または極めて少なく)、学習は学校でしっかりと修め、しっかりと遊んでいる。オンとオフの切り替えがしっかりしていると想像する。

 

ならば、きっと優れたカリキュラムを持ち、それが実践されていると考えるのが自然だ。世界中の教育者がフィンランドに学ぼうとした。特徴的な部分については解説サイトや文献が大量にあるので割愛するが、なかでも意外に感じるのは「平均を重視している」ことだろうか。

 

1クラスの生徒は20人ほどの少人数で、成績が低い子を底上げすることを重視し、学校内の平均学力を高めて教育格差を広げない。アメリカや中国、インドといった大国は、才能を重視し、特待制度を充実させたり進学コースを特化させたりといった、学力上位層を伸ばすことに力を入れている。ただし、その上位層となるには、多くの場合は多大な財力を必要とする。

 

これはどちらが優れている、という性質のものではない。国民性の違いや経済の規模、人口の規模など多くの要素の兼ね合いで決まるものだが、一般教育によって平均学力を高めたフィンランドが、学力世界一というのは興味深い。

 

フィンランドがこうしたスタイルをとれる最大の理由は、もちろん国策にある。フィンランドは多くの北欧諸国と同様に重税の国だが、その用途を教育に大きく振り分けている。フィンランドでは大学院まで学費がなく、給食費も不要。文房具も支給だ。さらには、両親の収入・就業状況にかかわらず、0歳から保育園が完備されている。

 

これだけの高福祉を実現できる財源は当然税金だ。フィンランドは消費税が24%、住民税が約19%。いずれも日本の2倍近い。税金の国民負担率(収入のうち何割が税金になるか)でいうと、日本は42%、フィンランドは65%。たとえば日本で年収300万円の人は、手取り172万円ほどになるが、フィンランドでは手取り105万円ということだ。

 

重税というと、いかにも生活が苦しいイメージがわくと思うが、フィンランドにはもう1つ、世界に誇るランキングがある。「幸福度世界一(※2018年。日本は62位)」だ。前述したように学校の束縛時間が短いだけでなく、労働時間も短い。ワークライフバランスを高い次元で維持できている。国土が狭く、人口も少ないため経済規模は小さいが、国民1人あたりのGDPは日本の1.25倍ほどになる。むしろ、相対的に裕福な国と言っていいだろう。さらに言えば、「移民にとっての幸福度」も世界一(※日本は25位)。中の人も、外から見た人も、外から中に行った人も、みんな「いい国だな」という感想を持っている。自国の芝生が一番青い、なんて素敵なことだろう。

 

フィンランドは決して伝統的に教育先進国だったわけではない。むしろ、フィンランドが教育レベルで注目されたのは20世紀末のことで、1994年の教育改革が大きな役割を果たしたとされている。わずか26年前のことだ。

 

加えて、決して裕福な国でもなかった。携帯電話、パソコン、インターネットの普及によって、農業国からハイテク工業国に転身し、そこから劇的に国力が増した。世界経済フォーラムによる国際競争力ランキングでは、2001年に初の1位に輝いているが、このレポートにある短評でも「過去10年間でめざましい転換を遂げた」とある。国の成長とほぼ歩みを同じくして、教育分野が大きく飛躍していったわけだ。

 

20世紀末頃からだろうか、日本でも「フィンランドの教育システムから学ぼう」という気運が高まったことがある。多くの関連書籍が出版され、そのカリキュラムを取り入れた塾が生まれ、学校教育に取り入れようという動きもあった。一部に活かされた部分もあったとは思うが、それから20数年が経った現在に至って、これといった成果は聞こえてこない。他の国を見渡しても、教育改革に成功したという事例は聞かない(※筆者が不勉強なせいかも)。思うに、変わろうとしたときに必要なのは、まず政治なのだろう。

 

日本人は勤勉で社会性を重視し、シャイな国民性だと言われる。ヨーロッパ圏においては、フィンランドがまったく同じ評価を受けているそうだ。また、国土が狭く、資源にとぼしく、敗戦を経て技術立国として復興を遂げたなど、フィンランドと日本には共通項が多いように思う。日本が学ぶ対象として、まさに理想的な国ではないだろうか。

 

皮肉な話だが、フィンランドが自国を教育大国にすべく舵切りを決断したとき、日本の教育システムが参考にされていたそうだ。日本から学び、取捨選択し、自国に最適なカスタムを施して、政治から国を変えた成果として、現在のフィンランドがある。今度は立場を逆にして、まったく同じことを、いつか日本もできるだろうか。